
~シリーズ:人材を守る~
保護具を考える:皮膚障害等防止用保護具の選定④
前回は『化学防護手袋』のJIS規格や選定基準等をご紹介しました。今回は印刷業特有の事情から、手間のかかる「取扱溶剤の成分特定」と、その成分に対応する「手袋材質の選定」について、掘り下げていきます。
印刷の溶剤は各場面で、用途ごとに様々な製品を使用します。その中で最も種類が多く複雑なのは、洗浄用途です。印刷方式・インキの種類・洗浄箇所・洗浄対象によって、必要な能力が付与された洗浄剤・処理剤が多数存在するので、印刷の洗浄作業は多種多様な成分の組み合わせで成り立っていると言えます。
例えばオフセット印刷では、インキの乾燥が油性とUVで主成分の違いから、対応成分も油性:石油系炭化水素(無極性)⇔UV:エーテル、エステル、ケトン(有極性)で違います。他にも洗浄箇所の違いで、インキ部は上記の対応成分ですが、給水部は親水化処理の成分と相性が良い極性溶剤と洗浄後に液残りを抑えるために石油系を混合します。
他にもインキツボ・ブランケット・圧胴部で、洗浄後にすぐ印刷が開始できる速乾性の揮発油と紙粉除去用途で水溶性のアルコール類を混合します。また、洗浄対象が変わると対応成分も増えて、インキローラに溜まるグレーズは紙の塗工成分(炭酸カルシウム)が湿し水の酸と化学結合でローラに固着するため、落とすには強酸が必要です。他にも、酸はプレートクリーナーの整面処理で使用し、その逆のアルカリは、頑固な油汚れの油分分解能力で、仕上げの洗浄剤や固着インキ落としに使用されています。
このように印刷には様々な成分が出てきますが、種類は石油系炭化水素、アルコール、ケトン、エーテル、エステル、酸、アルカリに分類できるため、これらに対応する化学防護手袋の材質が必要であり、以下にまとめます。
この表からゴムには耐性と弱点があり、全てに耐性が万能なゴム材質は存在しません。
⇒全て◎のポリエチレン多層フィルムはゴムではなくビニール素材で、蒸れて伸びないので、作業性は悪くインナー向けです。※耐透過性・耐浸透性は◎
材質の選定としては、印刷で必須の石油系に耐性◎のニトリル・ウレタンが候補で、JIS T 8116規格で酸・アルカリまで対応できる「ニトリル+ネオプレン」の重層タイプがお勧めです。また、ニトリル・ウレタン等が弱点の極性溶剤(エーテル/エステル/ケトン)には、ブチルゴムを使用する方法がありますが、石油系の混合溶剤に対応が難しいのと、全ての方が溶剤の種類と耐性を把握できないので、インナー手袋として、耐性が万能なポリエチレン多層フィルムで弱点を補う運用が現実的です。
このように印刷で使用する成分調査や対応する化学防護手袋の選定は、とても手間がかかり責任も重大です。自社の運用をよくご確認いただき、ご不明な点や最適な管理方法をご相談ください。