
~シリーズ:人材を守る~
手の保護を考える:ハンドクリーナー
お客様と共に現場の環境問題を考える「En-Forum」をご愛読いただき、ありがとうございます。本年も宜しくお願い致します。
さて、一年で最も寒い時期ですが、印刷業はどうしても様々な箇所がインキで汚れます。そして、作業者は手が汚れる度に、印刷インキに対応した強力なハンドクリーナーで手を洗います。それにより、この繁忙期の作業者の手は、繰り返される手洗いで、とてもひどい手荒れの状態になってしまいます。
そこで、今回はこうした印刷現場の手洗いに関して『ハンドクリーナー』と手の保護対策を考えたいと思います。
印刷現場で一般的に使用されているハンドクリーナーには、粉体と液体タイプがあり、どちらも界面活性剤の成分⇒汚れを包み込む・増粘効果・泡立ちを持たせる効果と研磨剤の成分⇒汚れを物理的に削り取る効果とアルカリの成分⇒油分を分解する効果の三つの成分を配合しています。これらの成分中で手荒れ(肌荒れ)を引き起こす要因となるのは、界面活性剤で使われている物質:直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(LAS)やポリオキシアルキレンアルキルエーテル(AE)などの合成界面活性剤や過剰なアルカリ成分です。
これらの成分は、台所の食器用洗剤や洗濯用洗剤にも入っており、普段の生活で最も身近な成分ですが、これらは石油由来で大量に製造され、とても安価で油汚れをしっかり落とせる洗浄力もあります。
しかし、その一方で肌に必要な皮脂までも取ってしまうことが分かっており、この皮脂は肌の水分の飛散を防ぎ、乾燥から肌を守るためのバリア機能です。これが失われると手荒れの要因となる「タンパク質変性」などが起こりやすい状態になります。つまり、合成界面活性剤やアルカリの成分で皮膚を傷めるのではなく、皮膚のバリア機能を奪うことで、手荒れのリスクが高まるという仕組みです。
これらを考慮して、パーム油(アブラヤシ)などの再生可能な植物由来の原料を用いた、タンパク質変性を起こしにくい界面活性剤があり、手荒れの対策に有効です。さらに洗浄力が不足しないように、油分の溶解力が高いオレンジオイルを配合したものもあります。
そして、研磨剤は肌に直接影響する成分で、昔からある粉体タイプのピンク粉石鹸は研磨剤がパーライト:ガラス質の鉱物であり、バリア機能を失った乾燥肌に対して、その研磨粒子が皮膚を削り取り、手荒れが重症化することから、最近ではこのピンク粉石鹸は減ってきて、スクラブ剤入りの液体タイプが主流となっています。
また、スクラブ剤入りの液体タイプの研磨剤も、従来は安価なプラスチック製のビーズでしたが、マイクロプラスチックによる環境汚染の問題から使用が控えられ、生分解性の高い植物性のセルロースを用いた環境対応品や手洗い後の保湿成分:アルガンオイルを含有した高保湿タイプなど、作業者の手の保護まで考えた製品が出てきています。
⇒次号へ続く