
~シリーズ:法令の把握と遵守~
環境法令を考える:労働安全衛生法「濃度基準値設定物質」
前回は労働者が作業中に吸い込む化学物質の濃度基準について取り上げました。そこで、濃度基準値は法的に超えてはならない限界値で、許容濃度はばく露濃度限界値の目安、管理濃度は作業場環境の法的な評価基準でした。
今回は労働者が8時間/日、40時間/週の作業中にばく露する濃度の法的な限界値である『濃度基準値設定物質』について、さらに掘り下げていきます。
濃度基準値設定物質は、2024年4月1日の新たな化学物質規制の運用開始時は※67物質でした。その中に印刷業界で関連があると思われる化学物質は3種類ほどしかなく、物質名やCASナンバー(化学物質の固有番号)、用途は以下の通りです。
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物質名 |
CAS |
用途 |
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クメン |
98-82-8 |
石油系溶剤 有機則:第三種 |
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ジエタノールアミン |
111-42-2 |
エマルジョン洗浄剤 色替え用洗浄剤 |
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2,6-ジーターシャリー ブチル-4-クレゾール |
128-37-0 |
インキ乾燥抑制剤 |
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これらの物質は石油系溶剤やエマルジョン(乳白タイプ)洗浄剤、インキ乾燥抑制剤等の成分中に僅か1%ほどの含有率で、使用頻度も限定されているため、ばく露濃度の観点で考えると特に問題視する必要はありませんでした。
しかし、2025年10月1日から追加された※112物質については、印刷業界に関連があると思われる化学物質が11種類ほどあり、その中には使用量が多く、使用頻度や量の制限が難しいものもあります。
※67物質+112物質:179物質⇒厚生労働省「職場のあんぜんサイト」(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/user/anzen/kag/ankgc11.html)より
追加の112物質で印刷に関連があると思われる化学物質は以下の通りです。
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物質名 |
CAS |
用途 |
基準値:8時間 |
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カーボンブラック |
1333-86-4 |
インキ顔料:墨 |
レスピラブル粒子 0.3mg/m³⇒0.6ppm |
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ジアセトンアルコール |
123-42-2 |
UV洗浄剤 |
20ppm |
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ジエチレングリコール モノブチルエーテル |
112-34-5 |
UV洗浄剤 |
60mg/m³⇒8.9ppm |
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シクロヘキサン |
110-82-7 |
速乾性洗浄剤 |
100ppm |
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トリエタノールアミン |
102-71-6 |
色替え用洗浄剤 手洗い石鹼 |
1mg/m³⇒0.16ppm |
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トリメチルベンゼン |
25551-13-7 |
石油系溶剤 有機則:第三種 |
10ppm |
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ノナン |
111-84-2 |
石油系溶剤 有機則:非該当 |
200ppm |
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t-ブタノール |
75-65-0 |
IPA代替アルコール |
20ppm |
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プロピレングリコール モノメチルエーテル |
107-98-2 |
UV洗浄剤 H液、水棒洗浄剤 |
50ppm |
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ノルマルヘプタン |
142-82-5 |
速乾性洗浄剤 |
500ppm |
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りん酸 |
7664-38-2 |
プレートクリーナー 親水化処理剤 |
1mg/m³⇒0.25ppm |
この中で、墨インキの顔料:カーボンブラックに基準値が設定されましたが、これは、レスピラブル粒子という超微細な粉体が気管支に入り、さらに肺の奥:肺胞まで到達した際の粉塵による健康障害で、カーボンブラックの製造や袋詰め等の工程を想定していると思われます。

したがって、墨インキのような粘性の液体:ワニスに顔料として、約20%の割合で分散するカーボンブラックを使用した印刷作業に限っては、特に問題視する必要はないと思います。※印刷機のインキローラ部付近にフィルターを設置して、印刷中に飛散するインキミスト対策を実施されている事例はあります。

⇒次号へ続く
















