~シリーズ:法令の把握と遵守~
環境法令を考える:新たな化学物質規制の運用
前回は労働安全衛生法の改正への対策で、化学物質のリスクアセスメントについて、簡易的にリスクと有害性を数値化する「コントロール・バンディング」を主体として、作業者のばく露量を推定する「クリエイト・シンプル」については、毎日の使用量が多いものに限定して、併用する方法をご紹介しました。今回はリスクアセスメントを実施した後の運用面について、取り上げたいと思います。
まず初めにリスクアセスメントの結果を作業者へ周知しますが、その際に「意見の聴取」が必要となります。これは作業者が通知対象物質を含む洗浄剤等を使用していて、普段から感じている事(危険に感じた事・臭気・作業の手順等)の意見を聴取し、記録を保存(3年)しておく必要があります。
※この意見の聴取は、実施者が明記されていませんが、化学物質管理者が主体となって、保護具着用管理責任者も同席の方が良いと思います
そこで、リスクアセスメントの結果と作業者への意見聴取から、現場全体で『ばく露低減措置』に取り組む流れとなります。このばく露低減措置とは、作業中に吸い込んでしまう化学物質の量を最小限に抑えるための対策のことで、以下の順番で検討していきます。
1.危険・有害性が低い代替品を検討
2.換気方法の見直し
3.作業方法や手順の見直し
4.ばく露の危険・有害性が高い物質に対応する保護具の使用
ちなみに、ばく露低減措置については「有機則が全て非該当だから大丈夫」や「保護具を着用しているから大丈夫」といった、根拠のない大丈夫という考え方で誤解されている方が多いですが、作業中に吸い込む量の低減措置に関して、有機則の該当・非該当は関係ありません。有機則非該当の製品にも危険・有害性の高い物質が数多くあり、有機則非該当=安全といった誤った認識が原因での事故が多発したからこそ、ばく露低減措置が義務化されたという背景があります。
そうした理由から、ばく露低減措置での保護具の着用については、最終手段として考えるべきで、代替品の選定・換気・作業方法の見直しを優先で実施していきます。
また、2024年4月1日から「化学物質管理における濃度基準値の設定」という、厚生労働大臣が定める物質として、作業者のばく露濃度の基準が設けられ、基準値以下での運用が義務化されました。現段階では67物質で、印刷業界では以下の内容が対象の可能性があり、クリエイト・シンプルで、ばく露濃度の推定と基準値以下での運用が求められます。
・酢酸ビニル:CAS108-05-4⇒製本用ホットメルト
・ジエタノールアミン:CAS111-42-2⇒水溶性クリーナーなどの乳化剤
・BHT:CAS128-37-0⇒インキ乾燥抑制剤
さらに、この「濃度基準値設定物質」は年度ごとに追加されていき、IPA代替アルコール・速乾洗浄剤・H液・UV洗浄剤・水棒洗浄剤等で、含有成分が候補になっており、ばく露低減措置が必要な製品が今後も増えていきます。
該当成分の情報は随時更新していきますので、お問い合わせください。