~シリーズ:法令の把握と遵守~
環境法令を考える:労働安全衛生法の改正⇒クリエイト・シンプル
前回は化学物質のリスクアセスメント方法で、リスク(吸い込む危険性)と有害性(吸い込んだ場合の有害性)を簡易的に数値化できる「コントロール・バンディング」の具体的な進め方をご紹介しました。今回は労働者が作業中に吸い込んでしまう量⇒(ばく露量)に着目した『クリエイト・シンプル』について考えます。
まず、クリエイト・シンプルは化学物質の取扱い条件から、労働者のばく露量を推定して「ばく露濃度の基準値」と比較できるツールで、英国安全衛生庁:HSEが作成したリスクアセスメントの考え方を踏まえて、厚生労働省が日本版クリエイト・シンプルのツールをWEBで無料公開しています。
(厚生労働省:職場の安全サイト「クリエイト・シンプル」)※外部のサイトに移動します
このツールはエクセルのマクロ機能から、取扱いの条件を入力⇒条件に沿った推定のばく露濃度を演算して出力します。ここでの取扱い条件とは1日の取扱量、塗布面積、換気レベル、取扱い時間、取扱い頻度、保護具の有無、接触時間、接触範囲等があり、さらに製品中の含有%も加味して推定します。
このクリエイト・シンプルのメリットは、費用負担のかかる現場での実測を行わなくても、使用している化学物質を作業中にどれぐらい吸い込んでしまうかを数値化して、基準値と比較ができるので、取扱い条件をどう改善すれば、ばく露濃度を下げられるかという『化学物質のばく露低減措置』の考え方に最も合致したリスクアセスメント方法です。
では、取り扱う化学物質を全てこのクリエイト・シンプルで管理できるかというと、実際の運用面からお勧めはできません。それは、クリエイト・シンプルが使用条件の詳細が確定しないと推定値が出せないからです。
例えば、毎日使用する化学物質で、ほぼ定量で消費されるローラー・ブランケットの自動洗浄剤/H液・湿し水添加剤(アルコール)などは、使用条件はある程度決まっていて、さらにばく露濃度も他の製品と比較して多く、作業環境の改善に「ばく露低減措置」が必要で、クリエイト・シンプルが有効となります。
しかし、上記のように条件が決まっていて、大量に使用する製品は印刷現場ではごく一部で、5製品程度です。一般の印刷会社では、化学物質のリスクアセスメントが必要な通知対象物質を含む製品数は平均50製品程で、取扱い数が多いと60~80製品ぐらいです。
つまり、製品数で考えるとクリエイト・シンプルでの管理に適しているのは全体の1割程度で、残りの9割程は使用条件が決まっていないか、製品中の化学物質の含有率が不明なものが多く、使用条件や含有率が不確定でも、リスクと有害性を数値化できる簡易的なコントロール・バンディングの方が、運用しやすいと思います。※通知対象物質は2,900物質となりますが、実測可能な化学物質は800物質ほどです
化学物質のリスクアセスメントは使用する化学物質のリスクと有害性を作業者が理解した上で作業する⇒自律的な管理体制が目的です。クリエイト・シンプルとコントロール・バンディングは両方に一長一短があるので、うまく組み合わせた対応をお勧めします。社内でよくご相談いただき、お問い合わせください。
⇒次号へ続く