基本を考える①:湿し水(H液の働き)

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~シリーズ:品質を維持する~

基本を考える:湿し水(H液の働き)

今年は平年よりとても早い梅雨入りでした。特に四国と近畿では統計史上最も早かったようです。この梅雨は、東アジア特有の気象現象で、冷たい高気圧と暖かい空気により発生した前線が停滞し、雨が降り続きます。昨年7月の豪雨災害では、長期的な前線の停滞で、記録的な水害が起こりました。近年、短時間での局地的な大雨が増加し、地球温暖化との関係が疑われています。普段から水害を想定した対策も考えておかなければなりません。
全国1時間降水量50mm以上の年間発生回数

さて、印刷現場でもこの時期に水で悩まされます。印刷では水を「湿し水」と言い、版面のインキが乗る箇所以外を薄い水膜で覆って、刷版⇒ブランケット⇒紙へと転写させるため、版面での湿し水調整が印刷に大きく影響します。『水を制する者はオフセット印刷を制する』という格言があるように、印刷トラブルのおよそ7割以上は、湿し水が原因だと言われています。

しかし、現場ではこの湿し水の役割や性質について、ほとんど意識をしないままに運用されており、コストで単純比較をされている先もあります。しかし、全印刷資材のコストで湿し水が占める割合は1%以下ですが、トラブルの7割以上も占める重要な要素ですので、ここをコストダウンするのは大きなリスクを伴います。そこで今回は「湿し水」とその性能を左右する『H液の働き』について考えたいと思います。

まず、湿し水の用語として、H液(給湿液)とアルコール(添加剤)があります。H液は水道水によって1~5%程度に希釈して湿し水となり、冷やされた状態で給水部である水舟に運ばれます。その後、水舟⇒水棒⇒版面へと供給されます。

湿し水の供給図
一方、アルコールは湿し水の能力を補完する目的で、湿し水に数%添加されることがあります。※最近はノンアルコールH液の運用が進んでいます。この湿し水の役割は①整面効果/②表面張力低下/③増粘効果/④乳化調整/⑤防腐効果とあり、図で表すと以下のようなイメージです。

湿し水の役割
この中でH液は①と②、アルコールは③~⑤を得意としており、どれか1つでも過不足が出ると、印刷紙面にトラブル(汚れ等)が出始めます。しかし、①~⑤のどこが問題かを見極めるのは難しく、調子が悪くなる度にH液を替えておられる先をよく見かけます。しかし、汚れる/汚れないだけで判断するのではなく、各役割を理解した上で運用方法や商品の選定によって「どこを補えば最適になるか」が重要です。

①は版面の親水性を維持して油分を取り除く作用で、pHを5~6付近に調整する必要があり、酸や塩でコントロールします。pHは酸性:0~7だと水が強くなり、強過ぎるとインキが乗りにくく、乾燥不良になります。アルカリ性:7~14だとインキが強くなり、汚れやすくなります。水道水がpH5.8~8.6なので、適度な親水性を保つため、印刷に適したpH5~6に維持するというのが目的です。※プレートクリーナー(酸性)で処理すると汚れが取れるのはこの作用です。

②は水の表面張力を下げて、薄い水膜で版面を浸すのに必要で、界面活性剤でコントロールします。H液の原価はこの界面活性剤で左右しますので、コストを下げようとすると、この機能が失われて版面上の水膜が厚くなり、インキの消費量やトラブルが増加するので注意が必要です。夏と冬に水のトラブルが多いのは、この界面活性剤が温度変化に弱いためでもあります。コストがかかる製品についても候補に入れて選定していただきたいです。
湿し水について

H液/アルコールの図解

次回(基本を考える②:湿し水(アルコールの働き))へ続く


 

 




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