基本を考える②:湿し水(アルコールの働き)

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~シリーズ:品質を維持する~

基本を考える②:湿し水(アルコールの働き)

前回(基本を考える①:湿し水(H液の働き))は、湿し水におけるH液の働きを取り上げました。今回は『アルコールの働き』について考えたいと思います。アルコールと言えばお酒を連想しますが、歴史は古く、紀元前4000年頃にはワインやビールについて、壁画等で描かれているようです。

ワイン・ビールの図
そんな人間ととても長い付き合いのアルコールですが、付き合い方を間違えると毒にもなります。印刷現場でもアルコールとの繋がりが深くなりすぎて、品質の維持に苦労されている先があります。正しく付き合うためにも、アルコールの働きについてしっかりと理解が必要です。そこで前回の続きです。湿し水の役割は下記の①~⑤ですが、①~②はH液が、③~⑤はアルコールが得意とする働きです。

湿し水の役割
③は水に粘度をつけて、運ばれる水量を増やします。H液ではグリコールエーテル系溶剤で調整しますが、アルコールはとても強く、特に版面での水が絞りやすい≒水不足になりやすい給水機構のハイデル、三菱等では十分な給水量を確保するため、重宝される能力です。

④はインキ中に水を入れる働きで、H液では界面活性剤で調整します。この種類により、乳化が早い/刷りだし良好:乳化が遅い/刷り込んでも乳化に強いタイプに分かれます。特に版面での水供給が良好な≒水過多になりやすい給水機構の小森、リョービ等ではこの性能が重要になります。アルコールはこの能力でも高い効果を発揮し、インキ中に入る水を細かくして、給水過多でも過剰乳化が起こりにくくなります。水に弱いUVや赤系(金赤)・金属系(金・銀・白)の顔料では、過剰乳化を防ぐためアルコールが使われます。※減らすと汚れが出やすくなるのはこの作用によるものです

⑤は湿し水に発生する菌の繁殖を防ぐ効果です。H液では有機窒素系化合物が有効成分ですが、紙粉・パウダー・ガム等の混入で菌が増殖⇒腐敗し①整面効果の低下⇒汚れが発生します。劣化した湿し水はpHが酸性でも汚れやすくなるため、劣化が早い夏の交換周期は特に注意が必要です。アルコールは殺菌力が強く、年中水交換なしで問題が出ないこともあります。(アルコール耐性菌が増えますので、水交換は必須です)

つまり、アルコールの効果は湿し水の③給水量を増やす+④水の上限を広げる+⑤長持ちさせる⇒『汚れにくい状態の維持』です。しかも、②版面の水膜を薄くする効果も併せ持つため、まさに魔法の湿し水になったような『刷り易さ』を与えてくれます。

しかし、アルコールにも弱点があります。それは、『添加量が一定に保てない』ということです。アルコールは揮発性+水溶性のため、添加濃度を表面張力で制御しますが、表面張力は温度で変化するため、設定値から±2%ほどブレます。しかも、手動計測用の「酒精計」は15℃:エタノール用のため、10℃前後の湿し水を計測すると濃度が約-2%に見えてしまいます。これらの理由から定量添加が難しく、水量の変化で品質のブレが起きてしまいます。また、入れ過ぎの場合は網点の中に細かな水泡が増え、乾燥後の濃度低下「ドライダウン」が起こります。

そして、何よりも揮発性により常に作業者がアルコールを吸い込む状態になります。『酒は適量』と言われるように、常用すると毒にしかなりません。基本はH液と水道水のみで定量管理して、どうしても必要な場合だけ少量添加するという付き合い方を推奨します。

湿し水について
アルコール(湿し水添加剤)について

⇒次回に続く


 

 




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